February 09, 2019

Planet Earth (Prince)

特定のジャンルでは括れない音楽を創り出してきた殿下、プリンスの最新アルバム。
いかにもプリンスといった曲調で、一昔前の彼の作品をどこか思わせる。盛り上がる曲と艶っぽい曲が入り混じり、ロックでポップスでファンクでラップでジャズで。結局、プリンスのジャンルは「プリンス」なのだろう。
盛り上がる曲としては、先行シングルでもある2曲目の“Guitar”が良い。ギター・ソロとシャウトがもう、やらしくてカッコイイ殿下の真骨頂といった感じだ。君を愛してるけど、ギターほどには愛せない、という歌詞がまたいい。49歳の殿下は老け込むどころか、相変わらずこんな曲を作ってしまうのだから、恐れ入る。自分を含めた世の男どもは見習わねば。8曲目の“Chelsea Rodgers”もノリノリで、後半のブラスは体が自然に動く。
一方、艶っぽい曲と言えば、特に6曲目の“Mr.Goodnight”だ。洒落たバーの夜に合いそうな、こんな雰囲気で女性を口説けたら、と思う。殿下とは比べようもない自分がやっても滑稽なだけだろうが。
個人的には、前作の“3121”の様な渋めの大人なアルバムの方が最近は好みだが、本作の様な如何にもプリンスの王道といった作りもいい。

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February 03, 2019

キサラギ

売れないアイドル、如月ミキが不審な死を遂げてから1年後、ファンサイトで出会った5人(小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之)が1周忌のために初めて集まった。ミキは殺されたのだと1人が言い始めたことから、5人での様々な推理が始まる。
『ALWAYS 三丁目の夕日』の古沢良太の脚本を佐藤祐市が映画化した密室劇。
素晴らしい。面白い。巧妙に伏線が張られた驚きのどんでん返し続きのミステリーでありつつ、中だるみなく随所に笑いを散りばめ、しかも、最後は温かい余韻を味わえる。脚本の秀逸さは、全く驚きだ。豪華俳優陣の個性際立つ演技も楽しい。特に常になく苦虫噛み潰したシリアスさを見せるユースケと怪しいオヤジぶりを発揮する香川の2人は、大いに見応えありだ。
本作をノーチェックだった自分は、とある人から「面白いらしい」と聞いて観た。これほどの秀作でありながらマスコミで殆ど採り上げられないことに、『檸檬のころ』でも感じた不思議さを覚えた。日本のマスコミは映画を評価する目がまるでないらしい。とにかく、本作は滅茶苦茶に面白い。痛快に笑えまくる一押しの映画だ。

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January 26, 2019

300

都市国家スパルタにぺルシア帝国による侵略の危機が訪れていた。買収された神託のせいで国家としての戦争を拒否されたレオニダス王(ジェラルド・バトラー)は、300名の精鋭だけで100万のペルシア軍に戦いを挑む。
『バットマン ダークナイト・リターンズ』や『シン・シティ』で知られるアメコミ界の巨匠、フランク・ミラーの原作を基に、『ドーン・オブ・ザ・デッド』のザック・スナイダー監督がペルシア戦争のテルモピュライの戦いを描いた作品。
やらなくてよかった事が多く、やってほしかった事が足りなかった。悪役のペルシア側を醜く描きすぎている。不気味な不死部隊や象の登場はいいが、処刑人の両腕が甲殻類の刃になっているのは滑稽なだけだ。あれでは殆ど『北斗の拳』の世界である。いつペルシア兵が「ひでぶ!」と言い出すかと思った。
一方、息を抜ける笑いはない。更に残念なのが、究極の戦闘場面を期待すべき映画にもかかわらず衝撃的な場面がない事だ。確かに勇猛果敢に戦っているが、『マッハ!』や『バットマン』シリーズの様に観客が「おぉっ!」と思わず声を漏らす気の利いた場面がない。最後の投げ槍も、あれだけ引っ張られるとレオニダスが何をするつもりか予想がつき、「それで外すなよ」と突っ込みたくなる。
暴力に溢れた平板なマッチョ映画で、フランク・ミラーらしいハードボイルドな魅力には欠ける残念な作品だった。

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January 11, 2019

スモーキン・エース

ラスベガスのマフィア、エース(ジェレミー・ピヴェン)の心臓に100万ドルの賞金がかけられたことをFBIのメスナー(ライアン・レイノルズ)らは突き止める。FBI、そして、サイクス(アリシア・キーズ)ら多くの殺し屋が動き出した。
『パルプ・フィクション』のタランティーノに次ぐ才能とも言われるジョー・カーナハン監督のクライム・アクション映画。
がっかりだ。冒頭、登場人物が多すぎて関係がつかめず、話の展開についていけない。漸く分かり始めて、個性的な殺し屋達の活躍を楽しみ始めて暫くすると、それが思いの外、大した活躍もしないまま消えていく。最後に考えもしなかったどんでん返しは確かに来る。だが、全然面白くない。
タランティーノが得意とするこの類の犯罪群像劇は、無茶苦茶な登場人物と激烈な暴力描写を軽快に笑い飛ばせるのが、本来の味だ。頭を使ったり、妙に深刻になってはいけない。しかし、本作は観客の自分の脳味噌が足りないのか性格に問題があるのか、展開が時々分からなくなるし、最後にFBIのメスナーが相棒を失って感情的になり公益を無視する場面が不愉快でならない。それぞれが特徴的な殺し屋も結局は人物設定の面白さだけで終わり、映画の中で活かしきれていないため、結局は大して印象に残らなかった。
一流のエンターテイメントを目指しつつ、定まらない散漫さで、最後に深刻ぶって終わる痛快とは程遠い映画だ。

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December 29, 2018

テヘランでロリータを読む(アーザル・ナフィーシー)

イラン出身の女性英文学者が、イスラーム革命後の抑圧された社会での暮らしを英文学を通して綴った回想録。
著者が実際にイランで私的に行った読書会に基づく刺激的な題名と、某紙での好意的な書評に惹かれて自分は手に取った。ナボコフの『ロリータ』が好きな素人小説家として、イスラム社会と「表現の自由」に関心もあった。
ただ、本書は題名から連想させるほど、『ロリータ』を多く採り上げてはいない。全体としては、特定の文学作を云々するよりも、女性やいわゆる「知識人」がイスラーム革命後のイランで生活することの困難さとそれを作り出している体制への怒りに満ちた文章だ。文学に関心がなくても、イランの現実を知るのには大いに役立つ本である。
特に面白いのは、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』をアメリカ特有の不道徳な文学だと糾弾する学生に対して、著者が提案して行われる『グレート・ギャツビー』を裁判にかける授業だ。イランの学生同士がアメリカの一小説を巡って熱心な議論を戦わせる場面は、それだけでも読むに値する。その他にも随所に文学を通して、体制、信仰、恋愛等々、様々なことを考えさせる。抑圧されている社会だからこそ、文学の価値が鮮明に炙り出されるのだろうか。改めて「文学の力」を見せつけられた。そんな「文学」を自分も創り出してみたくなった。
本書のあまりの面白さに自分は未読だった『グレート・ギャツビー』を早速、購入して読んでしまった。

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September 08, 2018

檸檬のころ

高3の秋元(榮倉奈々)は東京の大学に進学しようと決めている。そして、彼女を想う野球部の二人、佐々木(柄本佑)と西(石田法嗣)。一方、音楽ライターを目指している白田(谷村美月)は、或る日、同じ様に音楽を感じている軽音楽部の辻本(林直次郎)と言葉を交わし、彼が初めて作った曲の作詞を頼まれた。
豊島ミホ原作の青春小説を、本作が長編映画第1作目となる岩田ユキが脚本・監督を務めて映画化した作品。
傑作だ。泣きそうになった。高校時代を思い出した。そこらのテレビドラマや映画の様に作りすぎた展開でなしに、ままならない日常の中にこそあるドラマと、その奥で揺れ動く感情が、静かに瑞々しく描かれている。
主演の榮倉奈々は、同時期に公開された映画『僕は妹に恋をする』の方がジャニーズの松本潤と共演したためか話題になっていたが、本作の方が映画の完成度も榮倉の演技も遥かに上だ。
しかし、本作で印象的だったのは、もう一人の主役、白田の方である。理解者を得た喜び、不安、喪失感、それらを経て、彼女の口から「詩」が零れ出す夜の場面は、同じ様に創作に手を染め、似た経験もしてきた自分が最も共感できた最大の山場だった。苦しみ傷ついて、だからこそ、創作の「天使」は舞い降りる。
実際に林直次郎が歌う主題歌も効果的で、CDも買ってしまった。本作のDVDも是非買いたい。

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July 28, 2018

めぐみ-引き裂かれた家族の30年

1977年、いつものように学校へ出かけた当時13歳の横田めぐみが忽然と姿を消した。両親は娘を探し続け、遂に北朝鮮拉致問題に辿り着く。
クリス・シェリダンとパティ・キム夫妻の監督が、北朝鮮拉致問題を採り上げたドキュメンタリー。
思い入れの強さが感じられる映画だ。そこに共感を覚える観客は感動するだろうが、以前から横田夫妻が生理的に苦手な自分は、打楽器中心の音楽の多用、めぐみ氏や家族が美人や善人なことが何度も言及されること、家族会が自民党前で拡声器を使って「バカヤロー」と叫んだりすること、北朝鮮と交渉する小泉総理を増元氏が「プライドがない」と非難すること、それらが共感を妨げてしまう。地村保志氏と両親のエピソードの方が感動した。
もっと淡々と描かないと、映画としては少し鬱陶しく感じられる。拉致問題を知らない外国向けの広報映画としてはいいが、純粋なドキュメンタリー映画としては良い出来ではなかった。
念のため言っておくが、自分は拉致問題を放置しろと言っているのではない。北朝鮮の非道は非難されるべきで、この問題を軽視してはいけないのは当然だ。ただ、だからと言って、兵士を拉致されたイスラエルがレバノンを爆撃したように、日本が北朝鮮を攻撃するわけにはいかない。少し頭を冷やした議論が必要だと自分は思う。

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July 07, 2018

東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム (東 浩紀)

1971年に生まれ、東京郊外で育った二人の論客が、「東京」を素材に、サブカルチャー、都市の個性と均質化、セキュリティ、そして、ナショナリズムやリベラリズムと、様々に現代社会を論じる。
「東京」という街に関心があって読み始めたものの、知らない地域の話や学者にありがちな濫発される専門用語に辟易するところもあった。しかし、そんな読みにくさに目を瞑れば、採り上げられる話題は興味深いものが多い。
青葉台で実験的に行われている小学生にICタグを持たせて位置を把握するセキュリティ・サービスや成城の監視カメラ、ファミレスやジャスコ等の大型ショッピングセンターが並ぶ均質空間としての「ジャスコ的」郊外と下北沢再開発で問われる街の個性、自分も以前から感じていた東京における東西格差の深刻化の様な都市論だけではない。ライフスタイルの多様化と子どもの生活習慣の問題、ゴミ袋にICタグをつけるゴミ処理対策案、更には生物学的制約として「女性が類として出産する器官を独占していること」と「女性が個として出産を選択しないこと」の両立、抽象的リベラリズムの限界、等々、議論は驚くほど多岐にわたる。
随所に示唆に富む内容を含んだ面白い本だ。果たして現代人は街の個性を必要としているのか。それとも、古い人間のノスタルジーに過ぎないのか。突き詰めて考えてみたい、そんな思いを抱かされた一冊だった。

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July 01, 2018

そら (平原 綾香)

デビュー曲『Jupiter』で一躍有名になった歌手、平原綾香の4枚目のオリジナル・アルバム。
少し聴いた限りでは、全体としてのインパクトは薄い。1・2枚目のアルバムに比べて、3枚目から内容がこじんまりしてきた。デビュー当初の衝撃が薄れて、彼女の歌を聴き慣れたせいもあるかもしれない。とは言え、彼女の歌は最初からいきなり衝撃的に訴えてくるというより、じわりじわり沁みてくるタイプだ。前作『4つのL』も一時は気に入らず中古に売ろうかと思ったが、まだ手元に置いていて、最近聴いてみたら、結構気に入るようになっていた。
本作は、5曲目の『しあわせ』が良い。美しいピアノと弦、ゆったりした歌、どこか『明日』に似た雰囲気の曲だ。この他、6曲目の『夢暦』や8曲目の『CHRISTMAS LIST』が耳に残る。ただ、『CHRISTMAS LIST』の珍しく社会性ある歌詞は、それ自体は構わないものの、「正義が勝つ」という一節がいただけない。そう思いながら聴くひねくれ者のファンは自分くらいしかいないだろうが。
自分が好きなアルバム『The Voice』に数曲収録されていた彼女の作曲曲が、本作に入っていないのも残念だ。
ところで、音楽には無関係だが、本作の彼女の写真は綺麗だ。『夢暦』の歌詞の左頁に掲載された彼女の横顔から肩にかけての写真は、本当に美しい。(個人的に好きな某女性に似ているというのもあるが)

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June 26, 2017

残像

著名な前衛画家ストゥシェミンスキ(ボグスワフ・リンダ)は、ソ連の影響下に置かれたポーランドで政府の方針に反発したため、様々な迫害に晒されて厳しい境遇に追い込まれていく。
巨匠アンジェイ・ワイダ監督が、実在の芸術家を題材として、死の直前に完成させた作品。
映画館で観ている間、ほぼずっと苦しくて、観終わった後も、その苦しさが内臓と頭脳に伸し掛かったまま、その晩、寝るまでストゥシェミンスキの生き方の事ばかり考えてしまった。こう書くと単なる嫌な映画に思えるが、そうではない。久しぶりに観た素晴らしい映画だ。信念を貫く凄まじさと悲哀は、この物語だけの問題ではない。多くの人々は主人公に同情するだろうが、現実世界では彼のような人を追い詰めている事に気付かない。自分もまた。果たして、自分は信念を貫けるだろうか、そんな人の味方になれるだろうか。そんな事を考えさせられた。
本作はエンターテイメントとは程遠い。ワクワクする楽しさ、心温まる感動、観終わった後の快感を求める人は絶対に観ない方がいい。だが、生き方や社会の在り様に関心がある人にとっては、大いに意味のある映画だ。
ところで、主人公の娘ニカ(ブロニスワヴァ・ザマホフスカ)が、観ていて、とても切なかった。その切なさと親子の関係を淡々と描いてみせるところが、単なる反骨映画に終わらせないワイダ監督の巨匠たる所以なのだろう。

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